【小菅努氏】変化しつつある金価格の決まり方 ~実質金利だけでは説明できない時代~
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2026年09月16日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、マーケットエッジ代表 小菅努氏にコラム「変化しつつある金価格の決まり方 ~実質金利だけでは説明できない時代~」を執筆いただきました。

1976年千葉県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒。商品先物取引・FX会社の営業部、営業本部を経て、同時テロ事件直後のニューヨークに駐在してコモディティ・金融市場の分析を学びながらアナリスト業務を本格化。帰国後は調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社代表に就任。商社、事業法人、金融機関、個人投資家向けのレポート配信業務、各種レポート/コラム執筆、講演などを行う。
変化しつつある金価格の決まり方 ~実質金利だけでは説明できない時代~
執筆日:2026/09/14
・実質金利だけでは説明できなくなった金価格分析
金価格の分析を行っていると、近年はその決まり方が大きく変わりつつあることが認識されます。従来の教科書的な解説だと、金価格は米国の実質金利との逆相関関係で説明されるのが一般的でした。これは、金は金利や配当を生み出さない資産のため、「実質金利が上昇すれば金の相対的な魅力が低下する」一方、「実質金利が低下すれば金の相対的な魅力が上昇する」と考えられるためです。
つまり、投資家が比較しているのは「金利の付く米国債」と「金利の付かない金」であり、実質金利が上昇・低下のどちらの方向にあるのかが重大な関心事になっていました。
実質金利の上昇局面で金を保有していると、米国債を保有していた際に得られるはずだった実質リターンは大きくなります。一方、実質金利の低下局面で金を保有していても、米国債を保有していた際に得られるはずだった実質リターンは小さくなります。経済学では、このようにある資産を選択することで放棄する別の選択肢の利益を「機会コスト(opportunity cost)」と呼びます。金市場では、「実質金利上昇=機会コスト増大」、「実質金利低下=機会コスト縮小」と考えられてきました。これが金を売買する際の重要な判断材料になっていました。
こうした分析は現在でもある程度は有効です(※否定されたわけではないことは重要です)が、従来ほどには強い逆相関関係が認められない状況になっています。投資家が実質金利環境(機会コスト)とは別の視点から、金の売買を行う傾向が強くなっている可能性が高まっているためです。

・安全資産需要が機会コストを上回る
近年の投資家が比較しているのは「利息が付くもののインフレや財政懸念、政治リスクなどの不確実性を抱える米国債」と「金利が付かないが発行体の信用リスクを持たない金」になっている模様です。金融市場では、米国債は「無リスク資産」というのが前提条件になっていましたが、本当に無リスクな安全資産と言えるのか、疑問を持つ向きも増えています。
具体的には財政赤字と公的債務の膨張、地政学リスクの高まりに伴う世界の分断、政治運営に対する信頼の低下、中央銀行の独立性への懸念などが、米国債やドルに対する不安を高めています。メディアでは「米国離れ(ドル離れ)」と呼ばれることもありますが、実質金利を絶対視せずに、米国債(ドル)と金のどちらを持つべきかを考える向きが増えています。
あえて数式で単純化して、下記のように考えると分かりやすいのではないでしょうか?

従来は機会コストの議論が中心だったのが、近年は徐々に安全資産の議論の重要性が高まっています。このため、実質金利の上昇局面でも安全資産に対する需要が高まれば、金価格は上昇することもあるわけです。
当初は、こうした実質金利と連動性が低い金需要の中心は中央銀行でした。一方、昨年は機関投資家や個人投資家も、実質金利の高止まりが続く中で金を買い求める動きが強まりました。実質金利上昇による機会コストを、安全資産需要が上回る局面が増えているようです。
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