【志田富雄氏】日経平均株価は本当に回復した?
- #資産運用
2025年03月05日

いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニストの志田富雄氏にコラム「日経平均株価は本当に回復した?」を執筆いただきました。
日経平均株価は本当に回復した?
執筆日:2025/02/28
円の価値変化も株価に影響
昨年、バブル景気の末期に記録した最高値を更新し、一時は4万円台に乗せた日経平均株価は今年に入って下げる場面が目立つようになりました。米トランプ政権が打ち出す関税引き上げ策とインフレ再燃のリスク、それが金利や為替相場にどう波及するのか。国内では日銀の利上げも気になり、不透明感は拭えません。
日々の変動に目を奪われていると日経平均を構成する株価の単位が円で、名目値であることを忘れられがちです。株価を押し上げるのは基本的に日本企業の成長期待であっても、円の価値変化も影響しています。

バブル高値は20グラム相当
グラフは日経平均を国内金価格で割った数値です。日経平均=株価をその時の金の価値で測ると何グラム相当になるか、という意味になります。株価と金価格の力比べとも言えます。上に行く(グラム数が多くなる)と株の価値は上がり、低迷すれば価値が落ちていることになります。国内金価格は日本経済新聞朝刊の商品市況(主要相場)欄にある地金商系(消費税込み)を使い、日本で金の輸入が自由化された1973年からの月末値で算出しました。
よく目にする日経平均のグラフと全く違う絵柄にびっくりするのではないでしょうか。バブル高値を記録した1989年12月末の株価は「金で20グラム相当」ありました。旧ソ連がアフガニスタンに侵攻し、金相場が1トロイオンス800ドル以上に急騰した80年1月の水準(約1.3グラム相当)に比べ15倍強まで上昇しました。
もう一つの大きな山は「ドットコムバブル」「ITバブル」と呼ばれた時期です。対照的に金の国際相場は本格的な上昇局面に入る直前で、20年3月末に日経平均は約19.5グラム相当まで上昇しました。
昨年の金価格上昇率は40%
日経平均は金2グラム相当を一時下回った2011~12年あたりで底入れしたようにも見えます。かといって、上昇局面に入ったとはとても言えません。日経平均の回復以上に、金価格(金の価値)が上がってしまっているからです。昨年の上昇率も国内金価格は40%と日経平均(19%)を圧倒的に上回りました。25年に入ると日経平均が伸び悩む一方で国内金価格は史上最高値を更新。2月後半は国際相場の調整や為替が円高方向に動いたことで国内金価格も下げました。ただ、日米の株価は金相場より下げがきつく、2月末の日経平均は2.4グラム相当台まで下げました。金価格で見ると13年以来、12年ぶりの「安値」に逆戻りしたことになります。
私が日本経済新聞社に入社し、編集局証券部に配属されたのは1983年です。85年夏にはロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任しました。2年後に戻ると、日本は異様な好景気に沸いていました。給与は右肩上がりで、証券会社をはじめ若手社員にも高額の賞与が振り込まれました。しかも経費は半ば使い放題の時代です。 89年当時と株価水準はほぼ同じでも、物価高が家計にのしかかる昨今の風景は大きく異ります。首都圏のマンション価格などが高騰しても現在のバブルは局所的にすぎません。生活実感と照らし合わせれば、回復感に欠ける金建て株価の方が納得がいきます。企業収益は伸びているのだから国内株価はもっと上がっていいはず、という見方もできます。ただ、グラフが示す現実は依然として金優位を物語っています。
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