【志田富雄氏】WGCの東京セミナーで何が語られたのか
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2026年08月05日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「WGCの東京セミナーで何が語られたのか」を執筆いただきました。

1983年に日本経済新聞社に入社し、証券部に配属。85年にロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任し、原油や金、非鉄金属市場を初めて取材。「すず危機」や北海ブレント原油が10ドルを下回る急落場面に遭遇した。それ以来、コモディティー市場の取材歴は30年以上になる。2003年から24年末の退社まで編集委員。09年~19年は論説委員を兼務した。コメなどの国内食品市場や水産資源問題にも詳しい。日経電子版「Think!」投稿エキスパート。日本メタル経済研究所特任アナリスト。
WGCの東京セミナーで何が語られたのか
執筆日:2026/08/03
29社の鉱山会社が加盟するWGC
金市場ではお馴染みのワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が7月17日、都内で「分岐点に立つ世界、注目される金」をテーマに機関投資家向けのセミナーを開催しました。私も参加したので、エッセンスを紹介しましょう。WGCは1987年に有力な金鉱山会社によって設立された非営利組織で、現在はアングロゴールド・アシャンティ(米国)やバリック・マイニング(カナダ)など29社が加盟しています。本社はロンドンにあります。
米株式市場では2019年頃、金相場の上昇によって金鉱株に注目が集まり、バリック(B)とアングロ(A)、アグニコ・イーグル・マインズ(A,カナダ)、フランコ・ネバダ(N、カナダ)、ゴールド・フィールズ(G、南ア)の頭文字を取って「BAANG」という言葉も生まれました。いずれもWGCの加盟社です。
18年に就任したWGCのデビッド・テイト最高経営責任者(CEO)は、ゴールドマン・サックスやクレディ・スイスなどで資産運用の経験を積んだ人物です。WGCは金ETF(上場投資信託)の上場にも大きな役割を果たしたのですが、その話は来月にしましょう。
金需要はウクライナ危機あたりから宝飾品→投資にシフト
今回の東京セミナーでは機関投資家リレーション責任者も兼任する戸田淳WGC日本代表、WGCアジア太平洋地域(中国を除く)責任者であり、中央銀行担当のシャオカイ・ファン氏、アメリカ調査責任者のテイラー・バーネット氏が講演しました。まず、戸田代表が国際需給を解説。相場の上昇が目立ってきた2022年、ロシアがウクライナに侵攻した時期あたりから宝飾品、電子部品向けなどの加工需要が高値で減退し、地金やコイン、現物確保型のETFといった投資需要の伸びが顕著になった構造変化を説明しました。
金の需要構成も1990~94年平均と21~25年平均では様変わりした(出所=WGCデータから筆者作成)

戸田代表は日本の機関投資家が金を戦略的に資産に取り入れる意義として①金はこれまで内外の株式や債券といった伝統的な資産クラスに比べ高いリターンを示してきた②金融危機や新型コロナウイルス禍など市場に大きなストレスがかかる場面で資産全体の安定に寄与する分散効果が見られる③米国債や米株式市場などと比べても流動性の高い資産であるーーことを挙げました。機関投資家だけでなく、個人投資家にとっても金保有の意味は同じです。
日本を含めたアジア勢が国際相場を下支え
ファン氏はWGCが実施した中央銀行へのアンケート調査の結果について説明しました。先月のコラムで紹介した調査です。ファン氏によれば、76件の有効回答のうち、大半は米国とイスラエルがイランを攻撃した今回の中東情勢緊迫後に返送されており、情勢変化を反映した回答になっている可能性が高いといいます。中央銀行が金を保有する理由では、9年前に調査を始めた初期は「歴史的な経緯によるもの」が目立っていましたが、最近は危機時におけるパフォーマンスやインフレ、地政学リスクへのヘッジを重視するなど「21世紀型リスク」(ファン氏)に対応しようとする動機が多くなったと分析しています。
バーネット氏は調整色が強まった今年の金市場の動向を解説しました。米・イラン紛争が始まってから6月末までに85営業日が経過。03年のイラク戦争や22年のウクライナ危機など過去の危機に比べても金相場の調整は長引いています。バーネット氏は今回の危機がそれだけ大きなイベントであり、影響は年末あたりまで長引く可能性があるとみています。それでも、堅調なアジア勢の買いが相場を下支えていると指摘。年初から6月26日までの相場の変化を時間帯別に分析すると、ニューヨーク時間で8~17時の累積パフォーマンスはマイナス15.08%であるのに対し、3~8時の欧州が中心になる時間帯はマイナス1.32%。ところが、アジアが主体になる18~午前3時は12.97%と圧倒的なプラスで、米国主導の調整をアジアが支えていることが分かります。

WGCはETFの分析で地域別の動きも公表しています。北米地域では3月に135億ドルと過去最大の資金流出を記録しました。注意しなければならないのは、この地域区分は売買するETFの本籍地であり、投資家の所在地ではありません。バーネット氏は「(買いの目立った)日本の投資家がいなければ、北米地域の3月の資金流出はもっと大きな数字になっていた」と言います。戸田代表も現物需要の規模で言えば日本は中国やインドなどと比べて小さいものの、足元ではETF需要の伸びが顕著だと指摘しています。日米が協調して円買い介入に動いたとはいえ、急速な円安と物価高を見れば、日本人が金投資に動くのも納得できます。
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