【池水雄一氏】ゴールドは枯渇するのか?
- #貴金属投資の基礎知識
2025年04月09日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、貴金属スペシャリストの池水雄一氏にコラム「ゴールドは枯渇するのか?」を執筆いただきました。

一般社団法人日本貴金属マーケット協会 代表理事、貴金属スペシャリスト 1962年生まれ兵庫県出身。1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーでブルース(池水氏のディーラー名)の名を知らない人はいない。
ゴールドは枯渇するのか?
執筆日:2025/04/08
増え続ける地上のゴールド
ゴールドはいつか枯渇して価値が上がるのではないか、と時々聞かれます。ゴールドも限りある資源であることは確かです。しかしゴールドは他の資源と少し違います。最大の違いは、「ゴールドは永遠に無くならない」ということです。これはどういうことでしょうか。筆者はゴールドの最大の魅力はその「不変性」にあると考えます。つまり、ゴールドは一度地上に掘り出されるとそのまま残り続けるという特性があります。自然に存在する何物にもゴールドは反応しません。ゴールドが唯一反応するのは「王水」と呼ばれる濃塩酸と濃硝酸を3対1に混合した化合液に溶けるだけです。基本的にはゴールドはそのままの形で永遠に残り続けるということになります。鉄や銅など他の金属は酸に反応して酸化します。つまり錆びてしまい土に戻るのです。
3000年以上前のエジプトツタンカーメンのゴールドマスクがあのままの形で残っているのはまさにあれがゴールドだからです。エジプトのみならず古代のゴールドの遺品がその輝きを失わないまま今も博物館にあるのはまさにそれがゴールドであるからです。

この不変性というゴールドの特徴により、人類が有史以来掘り出してきたゴールドは基本的にほぼすべて(磨耗により失われたわずかな分以外は)地上に残っているということになります。ゴールド枯渇の心配をする人がいる一方、地上に存在するゴールドの量は確実に増え続けているのです。ゴールドの年間鉱山生産量はだいたい3600トン前後です。とすればこの分、毎年地上のゴールドは増えているという計算になります。一度掘り出したものは減らないわけですから。
現在の地上在庫
では現在どれくらいのゴールドが地上にあるのでしょうか。World Gold Councilによると以下の図のごとくになります。2024年末でのゴールドの地上在庫は216,265トン。これを一カ所に集めると一辺が22mの立方体となります。そのうち45%にあたる97,149トンが宝飾品、22%にあたる48,634トンが投資用のインゴットとコイン(ETFで保管されている地金を含みます。)そして中央銀行が保有しているのが37,755トンになり、これは地上在庫の17%に当たります。残りの15%はその他ということになります。世界中のゴールドを一カ所に集めてもこれだけしかない、というのはまさにその希少価値を象徴していると言えますね。
この地上でのあり方を考えるともう一つゴールドの特徴がわかります。それは、ゴールドの需要の大部分が「そのままの形で保有する」ということです。宝飾品にしろ、地金やコインにしろ、ゴールドそのものを保有するというのが、ゴールドの需要のほとんどなのです。これは工業用需要が7割を占めるプラチナや5割を占めるシルバーとは大きな違いだと言えます。ゴールドは実用的にはあまり役に立たないメタル。そのまま保有する投資家用のメタルだということが言えます。貴金属の中でも特別な存在であり、今はそれが評価されて貴金属の中でもゴールドが飛び抜けて投資家に買われているのです。

ゴールドの埋蔵量
さて次は地上ではなく地下にある部分の話。上の図でいうと水色の部分が地下のゴールドです。これによると埋蔵量は54,770トン。そして資源量が132,110トンとなっています。
まず埋蔵量と資源量の違いですが、埋蔵量は現在の価格で掘り出して経済的に意味があるもののことです。資源量とは現在確認されている地中に存在しているゴールドの量の総計です。埋蔵量よりも大きな数字であるのは、存在が確認されても現在の状況で掘っても損をする部分が多くあるということになります。それが資源量として把握されています。つまりもしこれからゴールドの価格がますます上昇すれば、これまでは採算に合わなかった鉱床でも採算に合うようになる可能性はあり、もしそうなると埋蔵量は増えることになります。なので現在の埋蔵量を掘り尽くすとゴールドが枯渇するというわけではありません。埋蔵量は増える可能性もあるのです。
30年前、原油の埋蔵量はあと30年と言われていました。30年たった今、原油は枯渇するどころか、埋蔵量はあと50年とされています。埋蔵量とはそういうものです。「枯渇」する心配はほとんどないと言っていいでしょう。そして地上のゴールドは増え続けます。ゴールドが無くなるという心配は全くの杞憂です。ただ、限りなく刷られるマネーに対してやはり数量の限りのあるゴールドがその価値を上げて行くことは避けられないでしょう。
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