【志田富雄氏】プラチナカードの方が格上ですよね?
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2025年05月07日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「プラチナカードの方が格上ですよね?」を執筆いただきました。

1983年に日本経済新聞社に入社し、証券部に配属。85年にロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任し、原油や金、非鉄金属市場を初めて取材。「すず危機」や北海ブレント原油が10ドルを下回る急落場面に遭遇した。それ以来、コモディティー市場の取材歴は30年以上になる。2003年から24年末の退社まで編集委員。09年~19年は論説委員を兼務した。コメなどの国内食品市場や水産資源問題にも詳しい。日経電子版「Think!」投稿エキスパート。日本メタル経済研究所特任アナリスト。
プラチナカードの方が格上ですよね?
執筆日:2025/05/02
相場逆転のきっかけはVWショック
一般にプラチナカードはゴールドカードよりも序列が上で、持っている人も少ないと思います。なかなか手に入らないコンサートのチケットのことをプラチナチケットと言ったりもしますよね。貴金属も鉱山生産量を見るとプラチナが176.7トン(英ジョンソン・マッセイのPGM market report、24年)であるのに対し、金の生産量は3673トン(ワールド・ゴールド・カウンシル統計、同)と20倍強の規模があります。鉱山生産量で比較すれば希少な存在なのですが、現在の価格は金がプラチナの3倍以上も高いのです。どうしてこうなったのでしょうか。
実は2014年以前は価格も金よりプラチナの方が高いのが普通でした。本格的な逆転がはじまったのは2015年です。一つの要因はドイツの自動車大手であるフォルクスワーゲン(VW)が排ガス試験で不正をしていたことが明るみに出て、欧州で主力だったディーゼル車の販売に影響が広がったのです。
自動車を中心に工業用途が7割
それがなぜ、プラチナ市場に影響するの?と思うかもしれません。下にあるグラフ(左)のようにプラチナの需要は自動車の排ガスを浄化する触媒を中心に工業用途がおよそ7割を占めます。自動車の触媒ではディーゼル車にはプラチナ、ガソリン車にはパラジウムが多く使われます。金も電子部品などの工業用途はありますが、全体の7%ほどにとどまります。


プラチナ需要データは英ジョンソン・マッセイの「PGM market report」から
2014年以前にも08年のリーマンショック直後や、日本が金融危機にあった1997年に価格が少しだけ逆転したことがありました。97年当時の日本は世界最大のプラチナ消費国で、市場では日本の金融危機→プラチナ需要の減少という連想が働いたのです。ちなみに、バブル景気の80年代は金市場でも日本は世界最大の需要国でした。今やプラチナ需要で中国は日本の3倍の大きさがあり、金も中国やインドの時代です。

プラチナ価格の低迷には疑問も
2014年以前にも価格の逆転はあったと言いましたが、逆転は一時的で、差はわずかでした。ところが、上のグラフを見てください。上がり続ける金と低迷するプラチナの差は広がるばかりです。逆転してしばらくは「今回も一時的で、すぐに元(プラチナが高い状態)に戻るはずだ」との声も多かったのです。やがて、そんな期待も萎んでいきました。
金価格が上昇する理由はよく分かります。リーマンショック以降も新型コロナウイルスの感染拡大、ウクライナ危機、トランプショックと危機は相次ぎ、その度に金市場にマネーが流れ込みます。ドルを中心にした通貨価値の低下も大きいでしょう。それでも「なぜ、ここまでプラチナ価格が低迷してしまうのか」という疑問はあります。プラチナは産業素材で景気不安の逆風を受けるとしても、典型的な産業素材である銅の価格は昨年も一時1トン1万1000ドルを超えて最高値を更新しました。銅と同じようにプラチナにも脱炭素のために使う需要はあり、しかも足元の需給バランスは供給不足なのです。すでに10年余り、プラチナはあまりにも市場で冷遇されている気がしますが、皆さんはどう思いますか。
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