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いしふくコラム

【志田富雄氏】日本で金を採掘する鉱山

  • #貴金属投資の基礎知識

2025年08月06日

いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。

今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「日本で金を採掘する鉱山」を執筆いただきました。

日本で金を採掘する鉱山

執筆日:2025/08/01

温泉が湧き出る菱刈鉱山

日本は金属・エネルギー資源に乏しく、大部分を輸入に頼っていることは間違いありません。佐渡金山などで金が採掘されたのは過去の話で、現在は都市鉱山(リサイクル)が頼りと思ってないでしょうか。いやいや、今も金を商業的に採掘している鉱山があります。住友金属鉱山が鹿児島県に保有する菱刈鉱山です。石灰石などを採掘する場所はありますが、地下に坑道を堀り、金属を商業採掘する鉱山は日本でここだけです。

もう20年近く前になりますが、菱刈鉱山を見学したことがあります。現場で名刺交換をさせていただいた責任者には「菱刈鉱山長」の役職名がありました。仕事柄、多くの方の名刺を頂戴しましたが、鉱山長という肩書きは初めてでした。

鉱山というと厳しい労働環境をイメージするかもしれません。しかし、現代の日本で大手企業が操業する鉱山です。坑内は驚くほどきれいで、金鉱石を掘り出している坑道の最も深い場所まで自動車で行けます。現在は鉱石を運ぶ重機を自律走行させるなど自動化も進んでいます。

今も金の採掘を続ける鹿児島県の菱刈鉱山(写真提供は住友金属鉱山)

採掘場所では温泉(約65℃)が出ており、温度を下げるために冷房装置があります。金鉱山から温泉が出てくるの?と思うかもしれませんが、菱刈鉱山の鉱床は「浅熱水性鉱脈型金銀鉱床」と呼ばれるもので、火山活動のマグマ水に溶け込んだ物質が固まって形成されました。生い立ちや、鉱床の名前からして温泉が出てきそうでしょう。温泉の一部は近隣の温泉施設に提供されています。

奇跡的に高い品位が国内生産を可能に

驚くのは温泉だけではありません。菱刈鉱山で掘り出される金鉱石には、国際標準と比較して極めて多い金が含まれているのです。現在の平均的な含有量は1トンあたり約20グラムと世界の主要鉱山の3~5グラム程度を大きく上回ります。この高品位が生産性の高さにつながり、日本での商業採掘を可能にしているのです。

操業開始から40年。金の採掘量は270トン程度と佐渡金山の3倍に及んでいます。25年度の生産計画は3.5トンです。昨年末にインタビューさせていただいた松本伸弘社長は「できるだけ長く操業を続けたい」と話していました。国内で鉱山技術を学べる貴重な現場でもあるからです。

鉄鉱石を産出した釜石鉱山は現在、バッテリーカートで坑内を見学する(写真提供は釜石鉱山)

ミネラルウォーターが湧き出す釜石鉱山

金ではありませんが、私はもう一カ所、国内で鉱山の中に入ったことがあります。江戸時代に盛岡藩士が洋式高炉を建設し、近代製鉄の礎を築きました。明治になると官営製鉄所に変わりましたが、そこに原料の鉄鉱石を供給したのが釜石鉱山です。1950年代には銅の選鉱場も作られ、銅の産出も始まりました。

1939年に日本製鐵から日鉄鉱業が独立し、釜石鉱山は日鉄鉱業グループに入りました。大規模な商業採掘は1993年に終了しましたが、その後も在庫として保有する鉄鉱石を需要家の希望に沿って供給しています。ここで採掘する鉄鉱石は磁性があり、磁鉄鉱と呼ばれています。

私は見学当時、電動のトロッコで坑内に入りました。現在はバッテリーカートに変わっています。菱刈鉱山からは温泉が出ますが、釜石鉱山からはミネラルウォーターが出てきます。鉱床や岩盤が天然のフィルターとなり、弱アルカリ性のミネラルウォーターが生まれます。釜石鉱山はこれを「仙人秘水」という商品名で販売しています。また、毎年夏、釜石市が企画する坑内の一般見学会が開催されます。歴史を学ぶ、夏休みの見学にぴったりではないでしょうか。

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