【志田富雄氏】金メダルは本当に金でできている?
- #貴金属投資の基礎知識
2025年07月02日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「金メダルは本当に金でできている?」を執筆いただきました。

1983年に日本経済新聞社に入社し、証券部に配属。85年にロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任し、原油や金、非鉄金属市場を初めて取材。「すず危機」や北海ブレント原油が10ドルを下回る急落場面に遭遇した。それ以来、コモディティー市場の取材歴は30年以上になる。2003年から24年末の退社まで編集委員。09年~19年は論説委員を兼務した。コメなどの国内食品市場や水産資源問題にも詳しい。日経電子版「Think!」投稿エキスパート。日本メタル経済研究所特任アナリスト。
金メダルは本当に金でできている?
執筆日:2025/07/01
五輪憲章で規定
4年に一度開かれるオリンピック競技は世界の人が注目します。勝者には金色に光る「金メダル」が授与されます。この金メダル、現在はすべて金でできているわけではありません。2000年代に入るまで、オリンピック憲章はこのように決めていました。①メダルは少なくとも直径60ミリ、厚さ3ミリでなければならない②1位と2位のメダルは銀製で、少なくとも純度1000分の925であるものでなければならない③1位のメダルは少なくとも6グラムの純金で金張り(またはメッキ)がほどこされていなければならない。意外なほど厳密な規則がありました。
2000年代に入ると、メダルについての規定は緩和され、事前に国際オリピック委員会(IOC)の承認もらえばいい、として自由度が高められました。昨年のパリ大会のメダルにはエッフェル塔に使われた鉄が中央部にエンブレムとして埋め込まれました。エッフェル塔は何度も改装を繰り返し、取り外された鉄が保存してあったそうです。

先の東京大会はリサイクル素材で
自由度が高まったとはいえ、金メダルは「銀の素材で6グラムの金メッキ」という従来のパターンを踏襲する大会が多いのも事実です。新型コロナウイルス禍で1年遅れの21年に開催された東京五輪で使われたメダルは、直径が85ミリ、厚さが7.7~12.1ミリ、重さが金メダルで556グラムでした。やはり金メダルは銀の素材に「6グラム以上」の金メッキが施されました。組織委員会によれば、銀メダルはすべて銀、銅メダルは銅95%に亜鉛が5%という配分でした。
東京大会で準備されたメダルはオリンピック、パラリンピックを合わせおよそ計5000個になります。組織委員会はこのメダルをリサイクル素材で製造することを決め、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」を立ち上げました。プロジェクトでは約621万台の携帯電話のほか、デジタルカメラやゲーム機、パソコンなど重量で7万8985トンの機器が集められました。そこから金30.3キロ、銀4.1トン、銅2.7トンを回収できたのです。
金メダルの素材価格は20万円ほどに
東京大会の金メダルの重量は556グラム。そのうち6グラムが金、残りの550グラムが銀とすると、直近の小売価格(消費税込み)で換算すると金、銀ともにそれぞれ10万1000円〜10万2000円ほど。金メダルの素材価値は現在の相場で20万円強になります。ちなみに東京五輪の開会式があった21年7月時点で金小売価格は7000円強だったので、金価格はそこから4年で2.4倍に上昇しています。550グラムの銀と6グラムの金がほぼ同じであることからも、金価格を銀価格で割った金銀比価が90倍と依然として高レベル(金優位)であることが実感できます。
オリンピックは12年のロンドン大会あたりから持続可能性(sustainability)という概念を打ち出し、施設の資材や選手村、プレスセンターなどで提供する食材などにも一定の基準が設けられるようになりました。野菜などの農産物は安全性だけでなく、生産現場での環境・人権保護も求められます。メダルの素材は東京大会ほど大掛かりではありませんが、16年のリオデジャネイロ大会の銀、銅メダルもおよそ3割がリサイクル素材で製造されています。世界の人々が注目するオリンピックだからこそ、環境保護や持続可能性といった理念が重視されるのです。
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