【池水雄一氏】大きく上昇したシルバーの背景と今後
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2025年12月10日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、貴金属スペシャリストの池水雄一氏にコラム「大きく上昇したシルバーの背景と今後」を執筆いただきました。

一般社団法人日本貴金属マーケット協会 代表理事、貴金属スペシャリスト 1962年生まれ兵庫県出身。1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーでブルース(池水氏のディーラー名)の名を知らない人はいない。
大きく上昇したシルバーの背景と今後
執筆日:2025/12/09
シルバーが年初来の上昇率が100%超え
このいしふくコラムでシルバーに関して書いた前回は5月5日のものでした。今見返してみるとそれ以降はゴールドとプラチナに関するものばかりでした。しかしその実、それ以降もっとも上昇したのはシルバーです。今回はその間にシルバーがどう動いたのか、その背景と現状、そして今後の展開を予想してみましょう。前回5月のコラムは、発表されたばかりのシルバーの需給統計に関して書きました。その中でもっとも肝心な部分は、次の四点に絞られます。
「7年連続の供給不足となっている」
「シルバーがゴールド以上に上昇するためには地上在庫が大きく減少する必要があること」
「金銀比価が100対1と歴史的に最もシルバーが割安のレベルにあること」
「これはシルバーを買うチャンスであること」
それから半年以上が過ぎた今シルバーはどうなったでしょうか。5月初旬32ドルであった価格は12月初旬59ドルまで上昇、歴史的高値の更新を続けています。シルバーの年初来騰落率はなんと101%となり、価格は年初の倍となりました。今年のすべての投資商品の中でもシルバーの100%超えの上昇率は圧倒的な1位です。ちなみに上位4位まで貴金属が独占となり、2位のプラチナは80%、3位4位はパラジウムとゴールドがほぼ同率の60%となっており、それに次ぐ5位はコーヒー豆の32%となり、大きく水をあけており、まさに2025年は貴金属の年であったと言えます。それが資金運用者の貴金属を持たざるリスクを顕在化し、さらに貴金属に投資資金が集まるという連鎖が起こっており、さらに貴金属の上昇を加速させるというマーケットになっているのです。


シルバーのパフォーマンスの背景
シルバーが貴金属の中でもずば抜けて上がった背景にあるのは、上記にあげたこれが実際に起こったことでした。
「シルバーがゴールド以上に上昇するためには地上在庫が大きく減少する必要があること」
これは突然やってきました。10月初旬、シルバーの金利であるリースレートが急騰、一時一ヶ月物が40%近くまで上昇、1日の超短期レートは300%まで取引されました。一体何があったのでしょうか。それはまさに地上在庫が、ある日突然無くなったのです。貴金属の場合その貸し借りはLoco London accountと呼ばれる、ロンドンの銀行に貴金属口座を持つことで、その口座間で貸し借りが行われます。例えば東京にシルバーの現物を持っていてもそれは貸借の対象とはなりません。そのため、このリースレートの急騰はロコ・ロンドンのシルバーがなくなったということを意味します。どうして突然こんなことが起こったのか。もちろん、それは長い時間、と言っても特に今年に入ってからのシルバーを巡る環境が積み重なり、それが臨界点に達し、10月初旬に突然マーケットにレンダー(貸し手)がいなくなり、トレーダーも初めてシルバーがロンドンで枯渇していることに気付いたことで、この急騰が起こったのでした。

シルバーがロンドンにて枯渇した背景にあるのは以下のような状況でした。
- 14月のトランプ関税により、CME先物が理論値を大きく超える価格で取引されたため、多くのトレーダーがLoco London買い、CME売りの取引を行い、ロンドンからニューヨークへシルバーを移送したこと。
- 2シルバーETFへの投資の増加。世界のシルバーETFのおそらく80%以上がそのメタルをLoco Londonで保管しており、それに関しては手をつけることができない。ETFの残高は現在28,709トンあり、そのうち80%がLoco Londonで保存されているとするとその量は22,967トンとなる。
(シルバーETF残高:28,709トン) 
- 3LBMA発表によるLoco Londonのメタル残は27,186トン。ここからETFに割り当てられた分を引くと、残りはわずか4,219トン。
(シルバーETF残高:28,709トン) 
- 4インドでシルバー需要が盛り上がっており、今年2025年の年間輸入量は700トン辺りになる見込み。

10月初旬に40%近くまで上げたシルバーの1ヶ月ものリースレートは現在約7%にまで下げて落ち着いている状態です。しかしそもそもゴールドと同じようなリースレートであるシルバーが0%であるゴールドに対して7%とも金利がついているということでさえも異常事態であると言えます。ゴールドとシルバーの現状の最大の違いはその需給構造にあると言っていいでしょう。ゴールドは十分にあります。一方シルバーは供給不足が続いており、それを補ってきた地上在庫もこの10月に底をつきました。そして歴史的高値の更新が続いています。リースレートが40%から一時4%に下がったことで、危機が去ったような感覚に陥るのは間違いです。リースレートの急騰で、NYや中国から現物がロンドンに移送されたことで、一時的に落ち着いているだけであり、根本的な供給不足はなんら解決していません。というか解決しようがないのです。そう考えるとシルバーはいつ何時また爆発するかもしれません。この供給不足の恐れは、シルバーのみならずプラチナや銅にも同じことが言えます。膨らんでいく需要に対して、供給が追いつきません。供給は簡単には増やせないのです。だとすれば個人投資家としてはこのようなメタルに投資しておくことは有効な投資になる可能性が非常に高いと言えるのではないでしょうか。
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