【志田富雄氏】トリビアな商品取引の「単位」
- #貴金属投資の基礎知識
2025年12月03日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「トリビアな商品取引の「単位」」を執筆いただきました。

1983年に日本経済新聞社に入社し、証券部に配属。85年にロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任し、原油や金、非鉄金属市場を初めて取材。「すず危機」や北海ブレント原油が10ドルを下回る急落場面に遭遇した。それ以来、コモディティー市場の取材歴は30年以上になる。2003年から24年末の退社まで編集委員。09年~19年は論説委員を兼務した。コメなどの国内食品市場や水産資源問題にも詳しい。日経電子版「Think!」投稿エキスパート。日本メタル経済研究所特任アナリスト。
トリビアな商品取引の「単位」
執筆日:2025/12/01
カラットはイナゴ豆が起源
コモディティー(商品)市場では昔ながらのユニークな取引単位が使われています。一般の人には雑学の部類に入ってしまうかもしれませんが、投資家が商品相場の動きを見る時には必ず目にする単位です。何でこんな単位が使われているのでしょうか。商品市場のトリビアです。
貴金属のトロイオンス(troy ounce)は7月16日のコラム「国内外で異なる金の取引単位」で小菅さんが詳しく解説されています。フランス中部にあった中世の商業都市トロワ(Troyes)に由来し、ここで金や銀を物品に交換する単位がトロイオンスでした。国際市場では金だけでなく、貴金属全般にこの単位が使われています。
昔の人は自分の体や、身近な植物などを基準にすることがありました。親指と人さし指の幅の2倍に当たる尺や、足の大きさに基づくフィートなどがそうです。ダイヤモンドなど宝石の重さに使うカラット(carat)は粒のそろったイナゴ豆が起源で、0.2グラムになります。ジュエリーで金の純度を24分率で示すK=Karatも語源は同じです。「18金(K)のネックレス」は金が18/24(75%)含まれていることになります。
日本のジュエリーに18Kが多い理由は、金は柔らかい金属で、他の金属を混ぜて硬くした方が加工しやすく、普段使いで変形しにくくなるからです。銅や銀、パラジウムといった金属を混ぜることでピンク、ホワイトなどのカラーバリエーションを増やし、ファッション性を高めることもできます。
原油はニシンを詰めた木製の樽から
皆さんがニュースなどでよく目にする単位は、原油のバレル(barrel)ではないでしょうか。英語で樽を意味します。石油産業が成長し始めた18世紀の米国では原油の運搬に木製の樽を利用したことが由来です。1トロイオンスの約31.1グラムと同じく、1バレルも約159リットルというメートル法に直すと中途半端な量になります。
米国のガソリン価格などで使うヤード・ポンド法の1ガロン(gallon)は約3.7854リットル。ただ、1バレルはその単位を使っても42ガロンという微妙な量です。15世紀の英国で魚のニシンを運搬するための42ガロン樽が生まれ、その樽が米国の原油取引に使われたという説が有力です。商品市場は歴史が古いゆえに、諸説入り乱れることがあります。
少し横道にそれますが、車社会の米国ではガソリン価格が1ガロン4ドルを超えると個人消費が冷え込み、景気に悪影響が出ると言われます。1ガロン4ドルは現在の円安水準、1ドル=156円で換算して1リットル約165円になります。また、原油などの現物取引では「カーゴ」という単位が出てきます。タンカーのカーゴタンク(貨油タンク)に由来し、石油トレーダーは「(誰々がインドネシア産)ミナス(原油)を2カーゴ買った」というような話をします。ここまで来ると商品市場の奥の院という感じです。
エネルギー分野では天然ガスなどに使う英熱量単位(BTU=British Thermal Unit)もあります。BTUは質量1ポンド(約0.45キロ)の水の温度を華氏1度分上昇させるのに必要な熱量で、カロリーに換算すると約252カロリーになります。米国の天然ガス先物はこれを100万倍して「100万BTUあたり3ドル」といった表示になります。
銅相場は米国がポンドあたりでイギリスがドル/トン
先ほどもヤード・ポンド法の単位が出てきましたが、これが話をややこしくしてくれる典型が銅市場です。本家英国のロンドン金属取引所(LME)はドル/トンで取引されます。ところが、米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループのニューヨーク商品取引所(COMEX)は1ポンドあたりの価格です。古くから非鉄金属市場に携わっている取材先には1ポンドあたりのCOMEX相場で歴史を語る人がいます。1トンは約2,204.6ポンドなので、COMEXの銅相場をざっと2200倍するとLME相場との乖離を見ることができます。「ヤード・ポンド法」を検索すると続いて「滅びろ」などという言葉が出てくるので、煩わしさを感じているビジネスパーソンは多いのでしょう。


穀物は種類によって重さが変わる
貴金属、エネルギー、銅とくれば次は穀物です。穀物の単位であるブッシェル(bushel)はもともと手の幅を意味するケルト語が起源とされ、それが穀物を積み込む作業を指すようになり、木製の桶1杯分を意味するようになったようです。ヤード・ポンド法のブッシェルが他の単位と異なる点は、桶1杯分の容量になるので、穀物の種類(比重)によって重さが違うことです。ややこしいことはやめてくれ!と言いたくなりますよね。トウモロコシやライ麦が約25.4キロ、大豆と小麦は同じ約27.2キロ、大麦が約21.8キロといった重量になります。もちろん日本に入ってくるとトン、キロあたりの価格に変わります。
最後に、商品市場の超上級者級トリビアです。住宅の内装材や合板になる南洋材丸太丸太にはブレレトン石という取引単位が使われ、はりに使う北米産丸太はスクリブナー、ロシア産北洋材丸太は農林石。木材の取引は基本的に体積(1ブレレトン石で約0.28立方メートル)を示す単位になり、CMEが上場している木材先物(Lumber Futures)は千ボードフィート(MBF=約2.36立法メートル)あたりの相場です。あと、綿糸にはコリ(400ポンド=約181キロ)という取引単位があります。皆さんが知っている単位はありましたか?
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