【池水雄一氏】中国の貴金属中心都市深圳訪問記
- #貴金属投資の基礎知識
2025年08月18日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、貴金属スペシャリストの池水雄一氏にコラム「中国の貴金属中心都市深圳訪問記」を執筆いただきました。

一般社団法人日本貴金属マーケット協会 代表理事、貴金属スペシャリスト 1962年生まれ兵庫県出身。1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーでブルース(池水氏のディーラー名)の名を知らない人はいない。
中国の貴金属中心都市深圳訪問記
執筆日:2025/08/12
影響力を増す中国
7月半ばに今年もまたWPIC(World Platinum Investment Council)が主催する「上海プラチナウイーク」に行って来ました。このイベントは上海市街からは80kmほど離れた海沿いにある「臨港新区」と呼ばれる経済特区のような地域で毎年行われています。筆者はスピーカーとして過去2年は会議に出席し、終わるとそのまま帰るというパターンで、会議の行われるホテル以外は行かなかったのですが、今年は上海市街経由深圳のプラチナ宝飾加工工場と精錬買い取り業者の見学ツアーに参加しました。深圳は20年以上前に訪問したことがありましたが、現在はその頃とは全く別の世界になっていました。それも当然で、ツアーで訪問した企業はいずれも起業して10年くらいの企業がほとんどで、20年前には影も形もなかったのです。深圳はいまや中国の貴金属の加工製造の基地として有名であり、中国全土への貴金属地金や貴金属宝飾品の供給基地となっていると言っても言い過ぎではないでしょう。そんな深圳の現在を自分の目でみることが、今回の中国出張の目的でもありました。
宝飾加工業者も含めて数社を訪問したのですが、まずその取引量にびっくり。多い日にはゴールド1トン、プラチナ200kgくらいの取引をしているということ。これは決してプロの間の取引ではなくあくまでOTCつまり個人顧客相手の取引で、ということです。まさに日本の常識では考えられないような数量です。


一つの企業を例に取ると彼らは顧客(個人)からゴールド製品を買い取り、それを自社のリファイナリーで溶かして自社ブランドのゴールドインゴットを作り、それをまた窓口で販売するが、おそらく大部分はSGE(Shanghai Gold Exchange)にデリバリーします。顧客からのゴールドの買い取りは、10分でその金純分を確定し、代金を支払うと。ちゃんと溶かして調べるとのことで、それを10分でやってしまうというのもまた常識外れに早い。とにかく何もかもで規模が違っていて驚きの連続です。その販売買取カウンターから見えるところにゴールドやプラチナ、シルバーの現物が並べられています。筆者が訪問したとき、少なくとも合計500kgを超えるゴールドのキロバーが置かれていました。その日のうちにSGEにデリバリーされるものということでした。

それだけの価値のものがある意味無造作に置いてあることが、日本人としてはとても気になりました。この日に行った宝飾業者の工場見学でも、日本では当然いろいろと制約があるのが普通ですが、こちらでは全くそういった制約がなく、何でもみせてくれて、写真も取り放題。特にセキュリティも気にしていないようなので、こっちが気になって聞いてみたら、中国では至るところに監視カメラがあり、犯罪はリスクリワード的には全く「割に合わない」のだそうです。これを聞いてちょっと複雑な気持ちになりました。治安維持を評価するのか監視社会を危ぶむのか、難しい問題ですね。
深圳の「水貝」(Shuibei)と呼ばれる地域に貴金属関係の企業のオフィス、ショールーム、そして販売店舗が集中している。日本の御徒町を何倍にもしたようなイメージだ。上記の買い取り販売の企業の窓口もこの地域にある。また大きなビルのフロア全体が宝飾品の販売フロアになっており、その大部分が白い。つまり最近は「プラチナ」の販売に特化しているカウンターが多く、ゴールドの占める面積はそれに比べて小さなものでした。ゴールドの価格があまりに上がったために加工業者がゴールドからプラチナにそのビジネスの中心を移しているという話に一致します。

確かに今年5月半ばからのプラチナ価格の急騰は、中国の輸入がその主な原因とみられていますが、現地の業界の人々話をすると、決して中国におけるプラチナ宝飾需要が盛り上がっていると言うわけではないようで、どうも業者が思惑でプラチナを買っていると言ったほうがよいと感じでした。中国の輸入と関税問題によるNY先物の買いでスポットメタルが中国とニューヨークへと運ばれたために、ロンドンとチューリッヒでのアカウントの現物が極端に減って、プラチナのリースレートが急騰し、価格急騰の理由にもなっています。つまり在庫の偏在が今のプラチナ上昇の背景にあるのではないか思っています。中国に持ち込まれたプラチナは、法律が変わらない限り海外に輸出されることはありません。ゴールドもプラチナもそのままの形で輸出されることは、中国では許されていないのです。もし消費者の買いがついて来ないとすれば、プラチナはだぶつき、中国の輸入は激減するでしょう。ニューヨークでは先物のプレミアムがなくなると、CME倉庫からロンドン、チューリッヒへのメタルの逆流があるでしょう。現在少しプラチナの上昇が少し一服したのはそうした動きが背景にあるかしれません。逆に言うと、中国で実際にプラチナの買いが盛り上がり、ふたたび輸入が増加ということになれば、プラチナはふたたび1500ドルを目指す可能性があると考えます。
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