【志田富雄氏】金や銀の歴史を面白く学ぶ著作
- #貴金属投資の基礎知識
2025年09月03日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「金や銀の歴史を面白く学ぶ著作」を執筆いただきました。

1983年に日本経済新聞社に入社し、証券部に配属。85年にロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任し、原油や金、非鉄金属市場を初めて取材。「すず危機」や北海ブレント原油が10ドルを下回る急落場面に遭遇した。それ以来、コモディティー市場の取材歴は30年以上になる。2003年から24年末の退社まで編集委員。09年~19年は論説委員を兼務した。コメなどの国内食品市場や水産資源問題にも詳しい。日経電子版「Think!」投稿エキスパート。日本メタル経済研究所特任アナリスト。
金や銀の歴史を面白く学ぶ著作
執筆日:2025/08/28
古代から紐解く「黄金の世界史」
若い世代の関心も高まり、金などの貴金属投資についてアドバイスする書籍は増えています。こうしたジャンルに比べると数は少ないものの、金や銀が絡んだ歴史を学べる著作もあります。その中で私が面白いと思った3冊を紹介します。私が日本経済新聞や日経ヴェリタスのコラムで何度か引用したものもあります。
1冊目は原本が1997年に小学館から発行され、2010年に講談社の学術文庫として出された「黄金の世界史」です。著者は文化人類学者の増田義郎東大名誉教授。学術文庫、文化人類学という言葉が並ぶと近寄り難い印象ですが、古代まで遡り、金と人類の関わりをわかりやすく解説しています。
「錆びることのない黄金は、永遠の生命を持つ神の象徴と考えられた。また、光り輝く黄金色は、万物に生命を与える太陽の色と同じであり、それゆえに多くの古代文明において、黄金は太陽と同一視されたのである」。人はなぜ、金に惹かれるのか。その理由は数千年前に遡るのです。ポトシ銀山の発見など16世紀以降、銀や金の生産が各国で増え、それが国際貿易や国の隆盛とどう絡んでいったのか、についての解説も参考になります。

通貨から金に殺到した60~70年代の市場を描く
2冊目は「いまなぜ金復活なのか」。タイトルから最近の作品?と思うかもしれませんが、原著は2002年の出版で、国内では2006年に徳間書店が翻訳本を出しました。著者はスイス人で、チューリヒ・ロスチャイルド銀行の設立にも参画したフェルディナント・リップス氏。私が惹かれたのは、1960年代から70年代にかけてポンド危機やドル危機が起きてマネーが金に殺到、ブレトン・ウッズ体制が崩壊していく様子を臨場感たっぷりに描いた著作の前半です。
「ドルの価値がもはや維持不可能となったのは、金のせいではなかった。真の原因は、銀行システムによる信用創造が行き過ぎたことにある」。昨今の動きと通じるものがあります。人間は失敗を繰り返すのでしょうか。
みんなが知るニュートンの「別な顔」
アイザック・ニュートンは?と聞かれれば、万有引力などで有名な英国の科学者というのが最も多い答えでしょう。貴金属市場に詳しい人であれば英王立造幣局長官を務め、世界で初めて金貨と銀貨の交換比率(ニュートン比価)を決めたことが出てくると思います。「ニュートンと贋金づくり」(白揚社、2012年)の舞台は17世紀末のイングランドです。フランスの方が金との交換比率が有利だったために銀貨は潰されて流出が止まりません。古い銀貨は削り取られて薄くなり、価値が低下してしまう有様。通貨の偽造も横行しました。
通貨の信頼を回復しようと、財務大臣のチャールズ・モンタギューはケンブリッジ大学で研究に没頭していたニュートンを抜擢。造幣局監事となったニュートンは急ピッチで通貨を改鋳し、通貨から宝くじにまで手を出した偽造の主犯格ウィリアム・チャロナーを捜査と尋問で追い詰めていきます。サイエンス・ライターであるマサチューセッツ工科大のトマス・レヴェンソン教授がニュートンの書簡や資料を基に執筆。なぜ、イングランド銀行が設立され、銀行券が発行されるに至ったのか、といった時代背景も丁寧に描写しています。
金や銀の話はほとんど出てこないので「THE WORLD FOR SALE」(日本経済新聞出版、2022年)は番外編です。何が面白いって、あまり表に出てこないコモディティー商社が主役だからです。ソ連崩壊後のロシアやアフリカ、中東、キューバが舞台です。マーク・リッチ&カンパニーや、同社から繋がったグレンコアやトラフィギュラ、ビトルなどの商社が巨額の利益を得ようと危ない橋を渡り、時には完全にアウトな事までやっています。時代の違いもあるでしょうが、コンプライアンスなんて無縁の世界です。
国際商品市場でコモディティー商社がどのようにして巨大な存在になったかが分かります。著者はハビアー・ブラス、ジャック・ファーキーの両氏。ともに英フィナンシャル・タイムズ紙を経て現在はブルームバーグ社で活躍しています。取材力と執念に感服します。
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