【小菅努氏】金の名目価格と実質価格 ~本当の過去最高値を更新~
- #貴金属投資の基礎知識
2025年09月17日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、マーケットエッジ代表 小菅努氏にコラム「金の名目価格と実質価格 ~本当の過去最高値を更新~」を執筆いただきました。

1976年千葉県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒。商品先物取引・FX会社の営業部、営業本部を経て、同時テロ事件直後のニューヨークに駐在してコモディティ・金融市場の分析を学びながらアナリスト業務を本格化。帰国後は調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社代表に就任。商社、事業法人、金融機関、個人投資家向けのレポート配信業務、各種レポート/コラム執筆、講演などを行う。
金の名目価格と実質価格 ~本当の過去最高値を更新~
執筆日:2025/09/15
「名目価格」と「実質価格」とは?
金に限らず資産価格のニュースでは、「過去最高値を更新」という表現が使われることがあります。これは、過去に記録したことのない高値を付けたという意味ですが、長期的な金価格の値動きを見る際には注意が必要な表現になります。
過去と現在ではインフレ環境が大きく異なるため、現在と過去の価格を単純に比較することはできないためです。現在の初任給と50年前の初任給を単純比較することに大きな意味がないのと同じです。
そこでマーケットで使われるものに、「名目価格」と「実質価格」という概念があります。「名目価格」は、マーケットで記録されたその時代の価格です。普段、ニュースなどで目にする価格がこれです。一方、「実質価格」は過去の価格をインフレ調整して、現在の価値に換算し直したものです。過去の価格を、現在の価値ベースで計算し直すことで、長期的な金価格動向を理解しやすくなります。
「実質価格」でも過去最高値更新
例えば、NY金先物価格は、1980年1月の1オンス=873ドルがその後の約30年にわたって過去最高値であり続けました。その後、金価格は1,000ドル、2,000ドルと上昇を続け、そのたびに「過去最高値を更新」と新たなニュースが配信されています。
しかし、この1980年1月の金価格をインフレ調整して現在の価値に換算すると3,635ドルになります。実は、「実質価格」での過去最高値を更新したのは2025年9月であり、現在は名実ともに金価格が過去最高値を更新した歴史的なタイミングになります。
インフレ調整にどの指標を使うかによって「実質価格」は変わりますが、米消費者物価指数(CPI)だと明確に「実質価格」での過去最高値を更新しました。

金市場にとっての1980年1月とは?
1980年1月と言えば、ソビエト連邦(当時)がアフガニスタンに軍事侵攻を開始した直後です。米ソ間の緊張緩和(デタント)が終結し、新冷戦と呼ばれる新たな軍事的緊張状態に突入したタイミングになります。米ソ両国が互いに軍備増強を競い合い、核戦争の危機が高まり始めた時の「実質価格」を上回ったと考えると、現在の政治経済環境に対する市場の不安感が極めて強いことが理解しやすくなります。安全資産が名実ともに過去最高レベルで求められる状況になっています。
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