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いしふくコラム

【志田富雄氏】ロシアの金準備増強は功を奏したのか

  • #貴金属投資の基礎知識

2025年10月01日

いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。

今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「ロシアの金準備増強は功を奏したのか」を執筆いただきました。

ロシアの金準備増強は功を奏したのか

執筆日:2025/09/29

17年連続で2000トン近い金準備を積み上げたロシア

金の調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC、本部ロンドン)は直近の各国の公的金保有量と、その変化をデータとしてホームページ(gold.org)で一般に公開しています。登録は無料で、中央銀行に限らず、金市場に関するリポートとさまざまなデータが入手できます。

ロシアが金を積み上げ始めたのは2006年です。同年から22年まで17年連続で金を積み増しました。WGCの年間変動データを足すと、その間に増やした保有金は1945.9トンに上ります。直近の保有量は2329.6トンと国際通貨基金(IMF、2814トン)を除く国別では世界第5位です。一番多いのは米国(8133.5トン)、2番目がドイツ(3350.3トン)、3位がイタリア(2451.9トン)、4位がフランス(2437トン)といった順番です。

ロシアの下には中国が迫っています。WGCのデータは基本的にIMFへの報告をもとに集計するため現状より2ヶ月ほど遅れ、中国の保有量はまだ2300.4トンになっています。すでに中国人民銀行(中央銀行)は8月末の外貨準備の中で保有する金が約2302トンまで増えたと発表しました。10ヶ月連続の増加です。一方のロシアは22年を最後に増加はストップ。ウクライナ戦争で軍事費が嵩み、それどころではないはずです。

クリミア併合を境に米国の制裁を意識

中国人民銀行が保有金を454トン増やし、1054トンとしたことを突如発表したのは2009年のことでした。当初はロシアも経済成長によって増えた外貨準備の一部を金に分散しようとしたのが動機だったでしょう。ところが、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを併合、さらにはウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜された事件で状況は一変しました。

ロシアは米国を中心にした西側諸国の対ロ経済・金融制裁に備えるようになったのです。グラフを見ると14年から18年は金準備の積み上げペースが加速したことが分かります。ロシアは18年に保有していた米国債を大量に売却。米財務省のデータでロシアは13年初めに1600億ドルを超す米国債を保有していました。それが18年に入ると1000億ドルを下回り、同年末には一気に130億ドル前後まで急減しました。準備資産を米国債からユーロや人民元、金へ分散したことが分かります。

準備資産を分散させてきたロシアにとって22年2月のウクライナ侵攻後、金融制裁でロシアの主要銀行が西側の決済網から排除され、欧米や日本がロシアからの金の輸入禁止を決めたことは誤算だったかもしれません。相場の上昇で金の資産価値は劇的に増えてもロンドン市場などで自由に売れなくなったからです。

中国の米国債保有額もピークから4割強減り、金の保有量を増やし続けています。中国(昨年の鉱山産出量は380トン)やロシア(同330トン)は世界1、2位の産金国であり、国内産出を備蓄に回せる強みもあります。それでも、ロシアと対照的にペースは緩やかです。中国は今でも日本に次ぐ米国債保有国で、レアアースとともに米国を牽制する武器にもなります。今年4月に米国債相場が急落した場面では「中国が大量売却に動いたのか」という憶測が市場を駆け巡りました。実際は違っても、マーケットを動揺させるほどの存在なのです。プーチン大統領にはかつてロシア帝国のものだったウクライナの領土を取り戻す野望があったにせよ、今のところ冷静な中国の戦略が優っているように思えます。

金でも原油と同じような動きが

ただ、ロシアは取引制裁を受ける原油も「影の船団」と呼ばれるタンカーで輸送し、中国やインドなどに販売を続けています。米財務省は影の船団の摘発に乗り出しているものの、モグラ叩きのような状態です。トランプ政権がロシアから原油を購入した国にも高関税を課す方針を示し、購入先の一つであるインドには25%の2次関税(相互関税と合わせ50%)を課したのは、これまでの対策が思うような効果を上げていないからです。

ロイター通信は昨年12月、英米両政府が違法な金取引に関与したとして個人や団体に制裁を課したことを報じました。英政府は金の密輸に関与したとして個人4人の資産を凍結。3億ドル以上のロシア産の金を購入し、ロシア政府に資金提供したとして別の個人(1人)の資産も凍結しました。英政府はこうした取引がウクライナ侵攻の資金源になっていると主張しています。大型タンカーが必要な原油に比べれば、金の取引は簡単かもしれません。モグラ叩きは金市場でも続きます。

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