【池水雄一氏】なぜこんなにゴールドが上がっているのか?
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2025年10月08日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、貴金属スペシャリストの池水雄一氏にコラム「なぜこんなにゴールドが上がっているのか?」を執筆いただきました。

一般社団法人日本貴金属マーケット協会 代表理事、貴金属スペシャリスト 1962年生まれ兵庫県出身。1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーでブルース(池水氏のディーラー名)の名を知らない人はいない。
なぜこんなにゴールドが上がっているのか?
執筆日:2025/10/06
小売価格2万円超えのインパクト
先月は円建てゴールド価格の歴史を書きましたが、それからもゴールドは上がり続けており、この原稿を書いている10月6日現在もまたゴールドは大きく価格を上げて、円建てもドル建ても歴史的高値を大幅に更新中です。やはりこれについて書くしかないでしょう。
現在円建てゴールドの歴史的高値は19,037円となっています。これは年初来で考えると40%以上の上げになります。前週9月29日に税込み小売価格が初めて2万円を超えたことによって、テレビ、ラジオ、新聞、週刊誌といったメディアが一斉にそれを報道し、筆者に対しても取材要請が次から次へと入り、10月第一週はほぼずっとマスコミ対応でした。テレビ局、生出演が3番組、オンライン出演が2番組、収録出演が2番組。週刊誌の取材が2社、新聞社は日経新聞に加えて朝日新聞、読売新聞、中日新聞など一般紙もゴールドの取材を申し込んできました。彼らの取材はほぼ同じ質問が多く、まずその中でも最初に聞かれるのは「なぜゴールドがこんなに上がっているのか?」でした。

「ゴールドがなぜ上がっているのか?」
a.長期的理由
この質問に対しては、時間軸の違う三つの理由があると説明しています。まず、超長期的な理由として、1971年にドル金本位制(ブレトンウッズ体制)が終了し、世界の通貨がゴールドのくびきを外れたこと。つまりそれまでは自国の持っているゴールド以上の通貨を刷ることができなかったのが、それに関係なく、いくらでも刷りたい時に刷りたいだけ通貨を刷れるようになったためです。
ゴールドに裏打ちされない通貨をフィアットマネーと言います。すべての通貨がフィアットマネーになり、当然通貨の量はねずみ算的に増加し、その価値は薄れていきました。際限なく刷ることができないゴールドの価値が増え続ける通貨に対して上がっていくのは当然の帰結です。ゴールドが上がっているというよりも通貨の価値が下がっていると言う方がしっくり来るでしょう。1971年通貨がフィアットマネーになってから1オンスのゴールドと米ドルの交換率は35ドルから3,900ドルへと111倍になったのです。つまりドルの価値は54年間で111分の1となったということです。ゴールドの上げ、通貨の下げは過去54年間続いていると考えるべきなのです。
これは悪いことではありません。資本主義経済が拡大再生産することはその宿命だからです。経済を拡大し通貨量が増えるのが資本主義の必然だとすれば、これからも通貨の価値は希薄化し続けます。それに対するゴールドの価値は上がり続けるしかありません。筆者はこれが一番大事だと考えます。つまり資産価値を保全するためにゴールドは短期的売買ではなく、ずっと持ち続けるべき資産なのです。

b.中期的理由
ゴールドの上昇が加速したのは2022年のロシアのウクライナ侵攻に対して、米国と西側諸国が経済制裁を課し、特に米国が、ロシアのドル資産を凍結したことにより、他の米国との距離を保っている国々にとってもドル資産(米国債)が、最も信頼のできる資産から、いつ凍結されるかもしれないリスクとなったのです。中国を代表とするこういった国々は「ドル離れ」の動きに出ます。そして彼らがドルから乗り換えた資産がゴールドなのです。2022年から、中央銀行のゴールド買いが突然一年1,000トンを越えた背景はこれです。1,000トン超えが3年続き、今年も1,000トンには届かないにしても、おそらくそれに近い数字になりそうです。つまり4年連続で3,700トンの年間鉱山生産のほぼ30%を新興国の中央銀行が買ってしまっているのです。価格が上がらないはずがありません。これが二つめの中期的にゴールドの上昇が加速した理由です。
c.短期的理由
そして今年に入っての上昇の加速は、前半はトランプ政権による関税政策、それが世界を不安に落とし込めたことにより、中国の投資家もゴールドを大量に買ったこと。この頃の中国の先物及び現物市場の国債価格に対するプレミアムは一時160ドルまで上昇しています。それが1~4月の2,600ドルから3,500ドルへの上昇の背景。その後3,300-3,400ドルの新しい高値レンジに慣れる期間が4ヶ月続いたあと、トランプ大統領のFRBクック理事解任のSNSをきっかけとして、レンジの天井であった3,400ドルをブレイクしたことにより、FOMO(fear of missing out)=ゴールドを持たざるリスクが意識され、さらに買いが集まり3,900ドル超えまで上昇しています。
これが短期的な上昇の背景。ゴールドの年初来の上昇率はほぼ50%。米株(S&P500)は11%です。ゴールドを持っていない資金運用担当者(おそらく大部分)にとって上昇を続けるゴールドを持たないことは、そのパフォーマンスに大きなマイナスです。そんな主に欧米の機関投資家、ヘッジファンドそして個人投資家の買いが集中しているのです。4月には大きなプレミアムであった中国が9月は逆にディスカウントになっており、欧米及び日本のゴールドETFの残高が大きく増えています。つまり9月の買いは中国ではない欧米や日本の買いであると思われます。

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