【志田富雄氏】日本銀行は金をどこに保管しているの?
- #貴金属投資の基礎知識
2025年11月05日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「日本銀行は金をどこに保管しているの?」を執筆いただきました。

1983年に日本経済新聞社に入社し、証券部に配属。85年にロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任し、原油や金、非鉄金属市場を初めて取材。「すず危機」や北海ブレント原油が10ドルを下回る急落場面に遭遇した。それ以来、コモディティー市場の取材歴は30年以上になる。2003年から24年末の退社まで編集委員。09年~19年は論説委員を兼務した。コメなどの国内食品市場や水産資源問題にも詳しい。日経電子版「Think!」投稿エキスパート。日本メタル経済研究所特任アナリスト。
日本銀行は金をどこに保管しているの?
執筆日:2025/10/31
19年の衆議院財務金融委員会で明らかに
4月のいしふくコラム「中央銀行も悩む金の保管場所」で、ドイツの金移送作戦を取り上げました。その中で、日本銀行が金を保管している場所についても少しだけ触れています。日銀はドイツ連邦銀行のようにホームページで保有金の量や保管場所を公開していません。それでも国会の答弁でおおよその保管状況を明らかにしています。その時の答弁が興味深いので紹介しましょう。
答弁があったのは2019年2月の衆議院財務金融委員会です。金についての議論ではまず、同委員会の末松義規委員(立憲民主党)が日本は外貨準備でどれくらいの金を持っているのか、という基本的な質問をしました。黒田東彦日銀総裁(当時)と武内良樹財務省国際局長(同)は、外貨準備には約765トンの金があり、日銀の保有分が約730トン、財務省が外国為替資金特別会計(外為特会、介入など為替相場の安定が目的)で保有するものが35トンあると答えています。ちなみに現在の保有量は計846トンに増えています。これは日本が金を買い増したわけでなく、21年に造幣局にあった金貨製造用の金を外為特会に移したためです。

「過半」がニューヨーク連銀の金庫に
ここで第1の本題。では、どこで保管しているのか、という質問です。まず、財務省の武内局長が財務省保有分は全てニューヨーク連銀にあると答弁。続いて日銀の内田眞一理事(当時)は「日銀が保有する金の過半につきましては、同じくニューヨーク連銀に寄託しております。残りは日本銀行自身が保管しておりますほか、ごく少額でございますが、イングランド銀行および国際決済銀行に寄託している分もございます」と話しました。
保管料は?という面白い質問もありました。ニューヨーク連銀は無料だそうです。さてさて、ここで第2の本題が出てきます。委員会はドイツの移送作戦にも触れ、日銀や財務省の金は本当にニューヨーク連銀にあるのか、調査はしたのかという質問をします。ここで財務省の金は日銀に管理をしてもらっていること、ニューヨーク連銀から帳簿上の保有量が送られてきてそれをチェックしていること、さらに実際に職員が地下金庫に行って確認したこともあることを明らかにしました。
ニューヨーク連銀では国、国際機関、中央銀行ごとに金庫内に120以上の区分を設け、その区分に入るためには必ず3人の立ち会いで入らなければならないなど「非常に厳格に金の延べ棒を管理している」(武内氏)とも語っています。
保管場所は見直さず
財務金融委員会の末松委員はこんな質問もぶつけました。第3の本題です。紙幣がやたら乱発され、紙幣の価値がなくなってくる危険性も高まっている。ニューヨークに保管する利便性を考えても、もっと自国でしっかり保管すべきではないか、と疑問を投げかけたのです。
この質問に答えたのは、当時の麻生太郎副総理・財務相です。麻生氏はニューヨークが「金の非常に厚い市場を有している」ことや、各国の政府、中央銀行もニューヨーク連銀を利用していること(売却する場合の利便性)、移送にはコストや安全性の懸念もあることを理由に挙げ、「引き続きニューヨーク連銀で保管する方が妥当性があると考える」と話しました。日銀の黒田総裁も同じ意見でした。
政府・日銀のスタンスは現在も変わっていません。麻生氏や黒田氏の答えにも合理性はあり、日米関係を考えるとドイツのように国内の保管量を増やす(ニューヨークから移送する)可能性は低いでしょう。私は保管場所の議論よりも、まず日本の経済規模、外貨準備の大きさから見てもっと金の保有量を増やすべきではないかと考えますが、読者の皆さんはどう思いますか。日米関係や金相場がこれだけ上がってしまったことで難しい?いえいえ、20年後にあの時・・・と後悔するかもしれません。この先、世界で何が起きるのかは誰も分からないのです。
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