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いしふくコラム

【志田富雄氏】金の産出国や需要国も時代で変わる

  • #貴金属投資の基礎知識

2026年02月04日

いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。

今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「金の産出国や需要国も時代で変わる」を執筆いただきました。

金の産出国や需要国も時代で変わる

執筆日:2026/01/30

鉱山生産は85年の2倍以上に増加

金の産出国や需要国は時代とともに変化しています。現在と1980年代を比較して、どのような変化が金市場で起きたのかを考えてみましょう。金市場を通して国の盛衰が見えてきます。1月21日のコラムで小菅さんが「産金国ランキングのトップ5」を取り上げていらっしゃいました。それを10位まで棒グラフにして並べたのが下の左グラフになります。右のグラフは南アフリカ共和国がダントツの1位だった1985年の順位です。24年はワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の集計で、85年は「Goldのすべて’93」(紀伊國屋書店)に掲載されていたGFMS社(当時)のデータを使いました。

85年は私が日本経済新聞社のロンドン支局に赴任した年で、英国は「鉄の女」と呼ばれたサッチャー政権の時代です。南アはアパルトヘイト(人種隔離政策)が行われていました。まず、大きな変化は世界の鉱山生産量が伸びたことです。85年は「自由世界」(言葉が80年代ですね)合わせて1238.8トン、「旧共産圏」が計340トンで、世界全体で1600トンに届いていません。WGCが先週発表した25年は3671.6トンなので、2.3倍に増えています。

読者の中には「採掘量をどんどん増やして金の地下資源は大丈なの?」という疑問もあるでしょう。85年の金相場はニューヨーク先物(期近)で高値が1トロイオンス(約31.1グラム)342ドル台で、安値は281ドル台まで下げています。産金コストは南アのトータルコスト(償却費などを含む、89年)で326ドル、西側諸国の平均で310ドル(同)というデータがあります。そこから産金コストは5倍以上(昨年第3四半期で1600ドル強)に上がっても、現在の相場は10倍以上に上がったので80年代には採掘できなかった場所も開発できるようになりました。探査や採掘の技術も進化し、その技術が新興国に及びました。銅鉱山などの開発でも「奥地へ、高地へ」という話はよく聞きます。ただ、昨年の鉱山生産は過去最高とはいえ前年からの伸びはわずか21トン。増産が難しくなってきたことが分かります。

南アの地下資源は減少

鉱山生産量は大幅に増えても、生産国の顔ぶれはガラッと変わりました。85年に671.7トンを生産した南アは優良(品位の高い)資源が枯渇していって生産量が減少。90年代に500トンを下回り、今や100トンに届かない凋落ぶりです。対照的に躍進したのが中国。85年に59トンだった生産量は380トンまで増えて世界第1位に。460トンを生産した15〜16年に比べるとピークアウトした感じもありますが、それでも高水準です。米国債の保有額を落としながら、金の保有量を着々と増やす中国は自国で金を生産できる強みもあるのです。85年に271トンを生産したソ連は、ロシアとなって330トンを生産。ロシアは19年からこの水準を維持しています。産金国の1位、2位が米国と対立する現実は時代の巡り合わせでしょうか。

小菅さんも触れられていましたが、ガーナの生産量が10年の94トンから140トン強まで増加するなどアフリカや中南米の台頭も目立ちます。アフリカや南米などでは相場高騰によって違法採掘の問題も浮上しました。WGCも「年間金供給量の20%、金採掘関連雇用の80%を占めるartisanal and small-scale gold mining(ASGM=小規模採掘業者)が組織犯罪、武装集団、腐敗した役人の標的になっている」ことを指摘しています。違法採掘は水銀による環境破壊や住民への健康被害のリスクもあり、各国間の協力でどう防ぐかが大きな課題です。

金は国の盛衰をかぎ取って移動する

80年代に比べると需要国にも大きな変化があります。残念ながら、その筆頭は日本です。バブル景気が崩壊するまで、日本は「世界最大の金需要国」であり、政府が天皇在位60年記念金貨向けの金を調達した86年の輸入量は607トン(旧大蔵省調べ、金貨、宝飾品は含まず)に達しました。「Goldのすべて’93」にはこんな記述もあります。「日本の需要を特徴づけるのは、工業用の比率の高さでしょう。エレクトロニクス向け、歯科材料むけなど、工業用の91年の日本の需要量は103.7トンでした。工業用需要で世界第2位、米国の62.7トンを大きく引き離しています」。しかし、世界を席巻していた「日の丸半導体」は衰退。バブル崩壊とともに宝飾品の需要も冷え込みました。

東京税関は13年5月に金の輸出入について特集リポートを公表しました。それによると、金粉やインゴットなどの未加工品、棒や線などの一次加工品を含め、日本は1976年から2012年までの間に4892トンの金を輸入し、2516トンを輸出。ネットで2376トンの金が日本国内に蓄積(菱刈鉱山の国内産出分は除く)されたことになります。ただ、03年以降は輸出が輸入を上回るようになり、国内の金が海外へ流出し始めたのです。日本から流出した金は、今世紀に入り需要国としても台頭した中国やインドなどの新興国に向かいました。金は国の盛衰をかぎ取って移動します。再び日本に金が集まる時代は来るのでしょうか。

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