【池水雄一氏】貴金属相場の乱高下の背景と今後を占う
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2026年03月11日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、貴金属スペシャリストの池水雄一氏にコラム「貴金属相場の乱高下の背景と今後を占う」を執筆いただきました。

一般社団法人日本貴金属マーケット協会 代表理事、貴金属スペシャリスト 1962年生まれ兵庫県出身。1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーでブルース(池水氏のディーラー名)の名を知らない人はいない。
貴金属相場の乱高下の背景と今後を占う
執筆日:2026/03/08
急騰そして急落
年初からの貴金属マーケットはすくなくとも筆者が見てきた過去40年には類を見ない規模の大きな動きとなりました。4300ドルで始まったゴールドは1月26日月曜日にはマーケットオープンでいきなり5000ドルの大台を超えました。筆者の昨年末に出していた相場予想は2026年にはゴールドは5000ドルの大台を超えるだろうというものであったが、あっという間に、1月早々にそのレベルを超えてしまいました。そしてさらに驚いたことには、1月26日に5000ドルを超えてわずか3日後の29日には、5594ドルとほぼ600ドル、10%もの上昇となりました。これは誰がどう見てもやり過ぎでした。年初の4300ドルから一ヶ月足らずで30%の上げです。
急騰の背景
この上げの背景は、ゴールドが上がることによって、より多くの投資家、もっと詳しく言うと短期的投資家がレバレッジをかける先物市場に買い参入してきたことです。先物市場では証拠金を納めることによって、その数倍から数十倍のポジションを取ることができます。これが「レバレッジ効果」と呼ばれるものです。自分の予想する方向にマーケットが動けば、その利益はレバレッジをかけない何倍にもなります。手っ取り早く大きな利益を狙える取引手法です。しかしもちろん、それは上手くいった場合の話です。もしマーケットが自分の思っている方向と逆に動けば、つまりこの場合はゴールドがさらに上がることを期待して先物を買っていたとすれば、その意に反してゴールドが下がった場合の話は全く逆効果になります。つまりレバレッジを掛けた分、その損失はレバレッジをかけた分、何倍にも膨らむということです。
ゴールドがどんどん上がる間は、それを原資にしてまたどんどんロングを膨らませていく。それが5000ドルを超えてからほんの短い時間に5500ドルをも超えてしまった上昇の背景です。筆者は基本的にゴールドの上昇はバブルではないと、もう何年も前からそう言われるたびに否定してきました。実際、ゴールドはそういった質問を受けてからもずっと上がり続けて来ました。ゴールドは上がり続けるべくして上がっている、ということです。しかし、さすがに年初からの想像をはるかに超えた上げ方、特に5000ドルを超えて3日間でほぼ600ドルも上昇したのは、これこそまさにバブルと呼ぶべき上げ方でした。
そして急落
当然このような前代未聞の上がり方にはそれなりの結果が伴います。この急騰に冷や水を浴びせたのはまずCME(Chicago Mercantile Exchange:世界最大の貴金属先物取引所)よる証拠金の引き上げでした。レバレッジをかけてポジションを持った投資家にとって、証拠金の引き上げは待ったなしに資金の追加を強制することです。もし資金に余裕がなければ、ポジションを減らす、つまりロングポジションを閉じる=売るということになります。それにより価格が下がればさらに残ったポジションへの証拠金積み増しをする必要が出てきます。こういった負のレバレッジがかかるとそれはまさに雪玉のように急速に売りが膨らんでいくことになります。
ほぼ同様のタイミングで新たなFRBチェアマンとして、ケビン・ウォーシュ氏が指名され、その政策が必ずしも利下げに積極的ではないという見方から、これもまたゴールドにとっては弱材料となりました。もちろんこれらは売りのきっかけに過ぎません。歴史的高値からの急落の要因は、ほぼ100%、ゴールドマーケットが「混雑」して買われ過ぎたというマーケットの内部要因が原因です。だとすれば、この内部要因であった短期筋の異常なロングポジションが整理されれば、本来のマーケットに戻る、ということです。
ちまたにはこの暴落により、もうゴールドが終わったというような意見が少なくありませんでした。筆者の見方はこれはあくまで積み上がった短期的ロングの振り落とし以外の何物でも無いと考えます。そもそもこの「急落」は、そこに至るまでの「急騰」があったからこそ起こったことなのです。今回のこの急落は、長期的投資家にとっては絶好の買い場となりました。短期投機家にとっては悪夢の動きであったかもしれないですが、ゴールドの長期投資家達にとってはまるで降って湧いたような信じられないような買いの機会になりました。5500ドルだったゴールドが翌日には4500ドルまで下がったのですから。まさに想像を超えるチャンスだったと言えるでしょう。
急落後の上昇
その後のゴールドはやはり、短期ポジションが整理されるとともにふたたび上昇となり、3月に入った現在5200ドル前後でまで価格を戻しています。直近では米国とイスラエルのイラン攻撃により再びマーケットのボラティリティが上昇していますが、マーケットが落ち着きを取り戻せば、短期トレードと長期トレードが交差しながら、ゴールドの長期的な上昇傾向は変わらないであろうと考えます。短期的な動きに一喜一憂することなく、長期的なポートフォリオとして、下がったところでは拾っていくというのが筆者お薦めのゴールドとの向き合い方です。

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