【志田富雄氏】ホルムズ海峡ってどんな場所?金相場はなぜ急落?
- #貴金属投資の基礎知識
2026年04月02日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、経済コラムニスト志田富雄氏にコラム「ホルムズ海峡ってどんな場所?金相場はなぜ急落?」を執筆いただきました。

1983年に日本経済新聞社に入社し、証券部に配属。85年にロンドン支局(後の欧州編集総局)に赴任し、原油や金、非鉄金属市場を初めて取材。「すず危機」や北海ブレント原油が10ドルを下回る急落場面に遭遇した。それ以来、コモディティー市場の取材歴は30年以上になる。2003年から24年末の退社まで編集委員。09年~19年は論説委員を兼務した。コメなどの国内食品市場や水産資源問題にも詳しい。日経電子版「Think!」投稿エキスパート。日本メタル経済研究所特任アナリスト。
ホルムズ海峡ってどんな場所?金相場はなぜ急落?
執筆日:2026/03/30
エネルギー輸送の大動脈
消費国は「量と時間の戦い」
- インフレが再加速し、景気は減速するリスク
エネルギー輸送の大動脈
イランが事実上封鎖した中東のホルムズ海峡はどのような場所なのでしょうか。金などの貴金属相場が一時急落しましたが、原油相場の高騰は世界経済や金市場にどう影響するかを考えてみましょう。
現在、世界の注目を集めるホルムズ海峡は中東のオマーンとイランの間に位置しています。海峡の最も狭いところは幅30キロメートル少しで、ほぼ直角に曲がり、そこに国際海事機関(IMO)が片側2カイリ(行きと帰り、約3.7キロ)ずつの航路を定めています(現在、イランが航行を認めた船舶はこの航路よりイラン寄り=下の地図で上=を通っている模様です)。海峡の奥(下の地図で左側)のペルシャ湾岸には原油や液化天然ガス(LNG)の積み出し基地があり、米エネルギー情報局(EIA)の調べでホルムズ海峡を通過した原油は24年平均で日量約2000万バレルに及びます。世界の石油消費量の5分の1、海上貿易の27%に相当する量です。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、カタールなどでタンカーに積まれ、ホルムズ海峡を通る原油(付随ガス分を含む)やLNGの推定8割強が中国や日本、韓国といったアジア市場に向かいます。
出所)米エネルギー情報局(EIA)、1Q25は25年第1四半期
マラッカ・シンガポール海峡やスエズ運河、パナマ運河といった場所は海上輸送の要衝(チョーク・ポイント)と呼びます。中でもホルムズ海峡はエネルギー輸送の大動脈なのです。米国とイスラエルに攻撃されたイランはその報復としてこの海峡を事実上封鎖し、船舶への攻撃も続けてエネルギーの血流がほぼ止まってしまったのです。パイプラインによる迂回輸送はできますが、輸送量に限界はあります。
最近のホルムズ海峡の様子。折れ曲がった辺りに船の形跡はほとんど見えない(赤い丸がタンカー)
出所)ケプラー、マリントラフィック
消費国は「量と時間の戦い」
3月2日の月曜日。私はシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループの米原油先物取引が始まれば相場は100ドルに向かって高騰すると思っていました。ホルムズ海峡の封鎖は国際エネルギー機関(IEA)が「石油市場で歴史上、最大の供給途絶」と表現するような重大危機だからです。現実の市場の反応は思ったよりも冷静でした。戦争は短期間で終わり、海上輸送もいずれ正常化するとの楽観論があったのでしょう。
しかし、互いの攻撃は終わらず、石油・LNG施設も被害にあって市場の雰囲気が変わってきました。米原油先物はロシアがウクライナに侵攻した2022年以来の高値となる一時1バレル(約159リットル)120ドル近くまで上昇。アジア地域の指標油種である中東産ドバイ原油にいたってはスポット(随意契約)価格が170ドル近辺まで高騰しました。
日本をはじめとするIEA加盟国はこんな事態のために原油や石油製品を蓄えています。その備蓄のうち加盟国全体で4億バレル強の放出を決め、日本政府は3月16日から民間備蓄、26日には国家備蓄の放出に動きました。ここから消費国は「時間と量の戦い」が始まります。海峡を迂回するルートや代替の産油国を探して少しでも調達(量)を確保しながら、備蓄が底をつく前(時間)にタンカーがホルムズ海峡を従来のように通れるようにしなければなりません。
インフレが再加速し、景気は減速する
原油などのエネルギー価格上昇は、さまざまな物価に波及します。ウクライナ危機で高騰した物価がようやく落ち着きつつあったのに、それが再加速しかねません。政府が補助を再開する前には国内のスタンドで販売するガソリン価格が1リットル200円を超える場所が相次ぎました。米国の金融当局は先行きの不確実性が高まったとして3月の利下げを見送り、長期金利が急上昇しました。利下げの後退どころか、利上げの可能性さえ浮上したのです。金などの貴金属相場が大きく下げた理由は、この変化が大きいと思います。現金を確保するために手持ちの金を売却する市場参加者も出てきます。
同時に、エネルギー価格の高騰は製造業や物流のコストを押し上げ、景気にマイナスの影響を及ぼします。家計もますます苦しくなり、個人消費が冷え込むおそれがあります。しかも、ホルムズ海峡を通る船舶はエネルギーだけでなく、石油化学製品を製造するナフサや肥料に使う「原料」も運んでいます。自動車や家電などの部品、素材、半導体が思うように製造できなくなり、経済活動そのものが停滞してしまうリスクもあるのです。
物価がどんどん上がるのに景気は落ち込む「スラグフレーション」のリスクが台頭しているのです。米トランプ大統領がイランへの攻撃を一時停止し、交渉を始めたと公表(イラン側は否定)したのも、このままでは米国経済と中間選挙への影響が大きいとみたからでしょう。ベネズエラと同じように考えていたトランプ政権の読みは外れ、逆に追い詰められたようにも見えます。イランをめぐる誤算は長い目で見て米国とドルの信任をさらに低下させる可能性があります。その意味で、金などの貴金属市場に資金が向かう潮流は変わらないと思います。インフレが再燃すれば金の役割が改めて見直されることも考えられます。
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