【小菅努氏】金はなぜ価値があるのか? ~不滅性の話~
- #貴金属投資の基礎知識
- #金
2025年05月21日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、マーケットエッジ代表 小菅努氏にコラム「金はなぜ価値があるのか? ~不滅性の話~」を執筆いただきました。

1976年千葉県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒。商品先物取引・FX会社の営業部、営業本部を経て、同時テロ事件直後のニューヨークに駐在してコモディティ・金融市場の分析を学びながらアナリスト業務を本格化。帰国後は調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社代表に就任。商社、事業法人、金融機関、個人投資家向けのレポート配信業務、各種レポート/コラム執筆、講演などを行う。
金はなぜ価値があるのか? ~不滅性の話~
執筆日:2025/05/16
金は時間の経過で劣化しない資産
金の価値の源泉について、金の「不滅性」の意味を解説します。「比重の話」、「黄金色の話」に続いて、なぜ人類は「金に価値がある」と考えるのかを考えてみましょう。
物質は、時間の経過とともに、様々な変化を見せます。例えば、鉄は時間の経過とともに空気中の酸素と結合し、錆びてきます。食肉は腐敗して、長期にわたって保存するのは困難です。物質だけではなく、動物も年齢をかさねることで老化現象に直面します。では、金はどうでしょうか。金は他の金属と比較して、極めて錆びづらい性質があります(まったく錆びない訳ではありません)。金の原子は非常に強い結合を有しており、化学的に安定した物質のため、酸化還元反応が起きづらいためです。
現存する最古の金宝飾品は、1972年にブルガリアの「ヴァルナ銅石器時代墓地43号墓」で出土した古代人の副葬品と言われていますが、紀元前5000年紀と、現在から約7000年前のものです。2015年に国立西洋美術館などの「黄金伝説展」で展示されたので見た人も多いのではないでしょうか。筆者も見学に行きましたが、現在でも黄金色の輝きを失っていませんでした。

金を溶かすことができる「王水」
こうした永遠に輝きを失わないことは、「不老不死」をイメージさせることが、金の価値の源泉の一つと言えます。金は時間が経過しても劣化せず、一定の品質を維持し続けます。こうした性質を有する物質は殆ど存在しないだけに、金が特別な資産として評価されやすくなっています。人類の「不老不死」に対する願望をかなえたのが、金ということもできます。その金を持つことで、「不老不死」に近づけると考えると、金宝飾品を身に着けたい、地金・コインを保有したいというのは、人類共通の感情と言えそうです。
金は、塩酸や硫酸でも溶解しません。ただし、濃塩酸と濃硝酸を3対1のモル比で混合してできる橙赤色の液体である「王水(おうすい)」だと溶かすことができます。その性質を利用して、金鉱石、さらには電子部品や宝飾品などから不純物を取り除いて金を回収する際にも、王水は使用されています。王水は800年頃に発見されたといわれていますが、現在でも電子機器の中の貴金属(いわゆる「都市鉱山」)などから金を回収する現役の技術の一つになっています。
金は、世代を超えて受け継がれていく資産
こうした金の不滅性は、投資対象としても金が長期投資に堪え得る能力があることを意味します。数十年といった一人の人間の時間軸を超えて、金は数百年、数千年とその価値を失わずに存在し続けます。世代を超えて、子供、孫、ひ孫と、その姿形を変えずに受け継いでいくことができる資産は多くありません。
今購入した地金やコインが、数百年後の子孫の資産として、現在と同じ形で存在し続けている可能性がある訳です。自分の資産であると同時に、それは子孫の資産にもなります。金が世界の富裕層から長年にわたって選好されている背景には、こうした金が持つ「不滅性」も影響しているのでしょう。

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