【小菅努氏】金はなぜ価値があるのか? ~希少性の話~
- #貴金属投資の基礎知識
2025年06月18日
いしふくコラムでは、読者の皆様への情報提供の一つとして、2025年より貴金属に関する四方山話や相場解説などを専門家に執筆いただきます。 専門家の深い知見に触れ、貴金属への興味・関心を持っていただければ幸いです。
今回は、マーケットエッジ代表 小菅努氏にコラム「金はなぜ価値があるのか? ~希少性の話~」を執筆いただきました。

1976年千葉県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒。商品先物取引・FX会社の営業部、営業本部を経て、同時テロ事件直後のニューヨークに駐在してコモディティ・金融市場の分析を学びながらアナリスト業務を本格化。帰国後は調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社代表に就任。商社、事業法人、金融機関、個人投資家向けのレポート配信業務、各種レポート/コラム執筆、講演などを行う。
金はなぜ価値があるのか? ~希少性の話~
執筆日:2025/06/13
金は希少価値の高い資産
金の価値の源泉について、金の「希少性」の意味を解説します。「比重の話」、「黄金色の話」、「不滅性の話」に続いて、なぜ人類は「金に価値がある」と考えるのかを考えてみましょう。
金は「貴金属(precious metals)」と呼ばれるように、希少性のある金属です。地球上に存在している量が限られており、それが価値の源泉の一つになっています。「希少性」とは何かを、1)地上在庫、2)埋蔵量、3)生産量の三つの観点からみていきましょう。
世界に金は、22立方メートルに収まる量しかありません
まずは1)地上在庫(ground stock)ですが、これは一般の方には馴染みのない言葉ですが、金投資を行う際には知っておいた方が良い概念です。
金は「不滅性」があるため、理論上は有史以来に採掘された全ての金が何らかの形で地上に存在するはずです。「消費=消滅」という一般常識とは異なる資産です。このため、過去に産出された金は、一種の在庫として機能し、これを専門用語で地上在庫と言います。
この地上在庫は、調査会社Metals Focusの推計によると2024年末時点で21万6,265トンとなっています。これが、人類が過去に採掘した金の総量になります。重量だと分かりづらいかもしれませんが、容量としては一辺が約22メートルの立方体に収まる量です。新幹線の車両が約25メートルであることと比較すると、イメージしやすいでしょうか。
地上在庫の内訳は、宝飾品が9万7,149トン(全体の45%)、投資が4万8,634トン(同22%)、中央銀行が3万7,755トン(同17%)、その他が3万2,728トン(同15%)となっています。もし、手元に金の宝飾品や地金、コインなどがあれば、それがこの地上在庫の一部ということになります。
もちろん、この地上在庫の全てが取引市場に出回る訳ではなく、大部分は世界のどこかに保管されたままの状態が続きます。金を購入するということは、この限られた量しかない地上在庫の一部を手元に持つということになります。

銅やニッケルとは全く異なる金の埋蔵量と生産量
次に埋蔵量についても見てみましょう。米地質研究所(USGS)の調べだと、2024年で6万4,000トンと推計されています。代表的な金属の埋蔵量は、銅が9億8,000万トン、ニッケルが1億3,000万トンです。これらと比較すると、そもそも金は世界に殆ど存在していないといっても過言ではないでしょう。
今後、新たな鉱床の発見や技術進歩によって埋蔵量が増える可能性はありますが、現時点で技術的・経済的に採掘可能と判断されている金の総量は、6万4,000トンすぎません。地上在庫(21万6,265トン)と埋蔵量(6万4,000トン)の合計28万0,265トンが、現在と将来の金の総量と言えます。世界の金需要に応える能力は、限られています。この希少性が、金の価値の源泉の一つになっています。
鉱山生産量は、過去10年の年平均が3,572トンとなっています。ちなみに、銅の年間生産量は2,300万トン、ニッケルは370万トンです。埋蔵量と同様に、生産量も他の金属と桁が大きく異なっています。簡単には生産できない特別な資源です。
現時点では、鉱山生産が近い将来に大幅に落ち込むとは予想されていません。しかし徐々に、採掘が容易な鉱脈は掘りつくされつつあり、今後はコストが高く、技術的にも困難な鉱脈への依存が高まっていくと考えられています。もし、鉱山生産が限界に近づき、大幅に落ち込む事態になれば、金は地上在庫の再利用(つまりリサイクル供給)以外では、簡単には入手できない時代が来ることになります。その時に、金の価値はどのように変わっていくのかは、金投資の興味深いテーマの一つです。

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